インターネットには、福沢諭吉の名言がたくさん並んでいます。しかし、そのなかには福沢の言葉ではないもの、出典が確認できないものが少なくありません。有名なものから順に、原典と突き合わせてみます。
本人の言葉と確認できるもの
「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」
『学問のすゝめ』初編の冒頭に、はっきりと記されています。福沢の言葉として最も確かな一文です。ただし、万人の平等を説くこの趣旨は、当時の欧米の思想にも共通するもので、決して福沢の独創ではありません。
「独立の気力なき者は必ず人に依頼す……」
独立の気力なき者は必ず人に依頼す、人に依頼する者は必ず人を恐る、人を恐るる者は必ず人に諂(へつら)うものなり。
これも『学問のすゝめ』(三編の趣旨を含む本文)に確認できます。
「学問の要は活用にあるのみ。活用なき学問は無学に等し」
『学問のすゝめ』に見える、福沢らしい実学観を表す言葉です。
出典が別にあるもの
「ペンは剣よりも強し」
これは福沢の言葉ではありません。もともとは西洋のことわざで、作家エドワード・ブルワー=リットンの戯曲に由来する表現が広く流布しました。福沢が英語圏の言葉として紹介・引用したことはあっても、福沢の創作ではありません。「福沢諭吉の名言」として紹介されがちなので、注意が必要です。
出典が確認しにくいもの
次のような言葉は、福沢の名前でよく引かれますが、原典での確認が必要です。
- 「今日も、生涯の一日なり」
- 「人生は芝居のごとし、上手な役者が乞食になることもあれば……」
- 「進まざる者は必ず退き、退かざる者は必ず進む」
いずれも、意味としては福沢の思想と響き合いますが、そのままの形で原典に載っているかは、一句ずつ確かめる必要があります。後世の編集・要約・意訳によって、福沢らしい言葉として広まった可能性があります。
なぜ誤引用が広がるのか
- 単独の名言として切り出すと、出典の確認が省かれやすい
- ある人物の思想に合う言葉が、その人物の名言として貼り付けられる
- 全集や伝記の編纂過程で、表現が整理・加筆されることがある
福沢の場合、全集編纂に関わった石河幹明による改変の可能性も、研究者から指摘されています。
見分け方
- 出典(著作名・編・章)が示されているかを確かめる
- 現代語の名言は、原典の文語と食い違っていないかを見る
- 「福沢が言いそうだから福沢の言葉」という推測を疑う
- 迷ったら、まず青空文庫の原典にあたる
