直とは
直は、まっすぐで、曲がっていないこと。正直、率直を指します。孔子は、人に直であることを重んじました。
しかし、直をめぐる一節には、読む人を迷わせるものがあります。
葉公、孔子に語りて曰く、吾が党に直き者あり。其の父、羊を攘(ぬす)む。而して子之を証す。子曰く、吾が党の直き者は、是に異なり。父は子の為に隠し、子は父の為に隠す。直、其の中に在り。(子路第十三・18章)
葉公は、父が羊を盗んだとき、子がそれを告発した。これが正直な者だと語りました。孔子は、それに異を唱えます。「父は子のために隠し、子は父のために隠す。そこに直がある」と。
単純な正しさではない
これは、嘘をつけという教えではありません。孔子は、正直を軽んじたのではなく、どこに本当の直があるかを問い直したのです。
法や評判に照らして正しいことを告げる。それは一つの正しさです。しかし、それによって親子の情を断ち切ることが、常に善いとは限りません。
孔子は、抽象的な正しさより、人と人の関係を重んじました。直は、関係の中で立ち上がるものでした。
直を嫌う者
孔子は、直を欠く者を、はっきり戒めました。
巧言令色足恭(きょうげんれいしょくそくきょう)、左丘明之を恥づ。丘も亦之を恥づ。(公冶長第五・25章)
口先だけうまく、こびへつらう。そういう在り方を、孔子は恥じました。直の反対は、へつらいと飾りです。
外づらを整えることより、内の真っすぐさを失わないこと。それが直です。
誤解しやすい点
- 何でも告げることという誤解:直は、告発の義務ではなく、関係の中の誠実さです
- 嘘が許されるという誤解:孔子は法を軽んじたのではなく、情の重みを説きました
- 身内びいきという誤解:直は、へつらいや隠蔽とは違います
日常でどう使うか
正直でありながら、相手を傷つけず、関係を壊さない道を探す。単純に「言えばよい」のでも、「黙っていればよい」のでもない難しさが、直にはあります。
孔子の直は、正しさを押しつけるのではなく、関係の中で最善を探すことを求めています。