二人の関係
カール・グスタフ・ユングも、アドラーと同じくフロイトの初期の協力者でした。ユングは一時、フロイトの後継者と目されていました。
しかし1913年ごろ、ユングもフロイトと決別します。アドラーの決別(1911年)とほぼ重なる時期です。二人はそれぞれ、フロイトとは別の心理学を立ち上げました。
個人心理学と分析心理学
- アドラー → 個人心理学(Individual Psychology)
- ユング → 分析心理学(Analytical Psychology)
「個人」は、分割できない indivisible な全体という意味です。アドラーは人間を一個の統一体として見ました。
ユングは、人間の心を意識と無意識の全体としてとらえ、その深層に普遍的な構造を想定しました。
無意識のとらえ方
ユング:集合的無意識と元型
ユングの最大の特徴は、集合的無意識です。個人の経験を超えて、人類に共通する心の層があると考えました。そこに現れる普遍的なパターンが元型です。
- 母親、英雄、影、自己といった元型
- 神話・宗教・おとぎ話に繰り返し現れる
アドラー:目的に奉仕する無意識
アドラーは、こうした普遍的で神秘的な層を想定しませんでした。無意識もまた、その人固有の目的と生活様式に沿って働くものだと見ました。
- ユング → 人類共通の深層
- アドラー → 個人の目的に結びついた志向
到達点:個性化と共同体感覚
人間がどこへ向かうかでも、二人は分かれます。
- ユング → 個性化(individuation)。無意識と向き合い、自己へ統合される過程
- アドラー → 共同体感覚(social interest)。他者とつながり、貢献へ向かう方向
ユングの中心は、内なる全体性の実現です。アドラーの中心は、他者との関係です。
→ 詳しくは共同体感覚とは
内向・外向のタイプ論
タイプ論でも対照的です。
ユングは、リビドーの向きによって内向型・外向型を分け、さらに心理機能を組み合わせてタイプを整理しました。これは現代の性格検査にも影響を与えています。
アドラーは、固定的な類型に人を当てはめることに慎重でした。彼が見たのは、その人独自の生活様式です。
- ユング → 共通の型に分ける
- アドラー → 一人ひとりの独自性を見る
目的論という共通点
違いばかりではありません。両者には共通点もあります。
- フロイトの原因論を批判した
- 未来や目的の方向を重視した
- 人間を成長へ向かう存在として見た
- 象徴や物語の意味を重んじた
特に、過去の原因だけで人を説明しない点は、二人に通じる姿勢です。アドラーの目的論と、ユングの将来へ向かう志向は、近い方向を指しています。
決別の経緯
アドラーは1911年、ユングは1913年ごろにフロイトと決別しました。動機はそれぞれ異なります。
- アドラー → 性の理論と原因論への反発
- ユング → 無意識のとらえ方とリビドー概念をめぐる対立
共通するのは、人間を一つの原理に還元しないという主張です。二人は別々の道を選びましたが、そこには似た問題意識がありました。
